エステリ・トムラとボタニカ|植物図鑑のような器

白い陶板のまんなかに、一本の草花。その下に、小さな手書きの文字でラテン名が添えられています。

図鑑の一ページを、そのまま壁にかけられるようにしたような器。アラビアのボタニカシリーズです。描いたのは、この窯で約40年を過ごしたひとりの絵付師、エステリ・トムラでした。

エステリ・トムラという人

エステリ・トムラは1947年、ヘルシンキの美術工芸学校を卒業し、その年のうちにアラビアに入社しています。肩書きは「装飾家(デコレーター)」。器の形をつくる人ではなく、その表面に絵を描く人として、1984年までのおよそ40年間、この窯にいました。

同じ時代のアラビアには、ビルゲル・カイピアイネンのように装飾そのものを主役にした作家も、ウッラ・プロコペのように「使うための形」を追い求めた作家もいました。トムラの仕事は、そのどちらとも少し違います。

彼女が描いたのは、ほとんどが植物でした。庭の花、道ばたの草、森のベリー。北欧の夏はみじかく、花の季節はあっという間に過ぎていきます。その短さを惜しむような手つきで、彼女は40年間、植物を描き続けました。

エステリ・トムラ ボタニカシリーズ 手書きのラテン名
エステリ・トムラ ボタニカシリーズ 手書きのラテン名

ボタニカ|壁にかける植物図鑑

ボタニカ(Botanica)は1978年から1989年にかけてつくられた壁掛けプレートのシリーズです。30種類以上のモチーフがあり、さらに薔薇を描いたローサ(Rosa)、森のベリーを描いたものが続きました。

このシリーズがほかの花柄の器とはっきり違うのは、植物の名前がラテン語で、しかもトムラ自身の筆跡で書き添えられていることです。印刷された書体ではありません。手で書かれた文字です。だからプレートを一枚ずつ見ていくと、同じ人がずっと書き続けてきたのだ、ということが伝わってきます。

装飾というより、記録に近いのだと思います。摘んできた草花を紙にはさんで、名前を書いて、とっておく。ボタニカにはその静けさがあります。

飾ってみると、意外なほど場所を選びません。白い余白が多く、色数も少ないので、和室の壁にも自然になじみます。壁にかけてみたお客様から「思っていたより主張しない」というご感想をいただくことが、よくあります。

アラビア ボタニカ 姫ナデシコ 壁掛けプレート
アラビア ボタニカ 姫ナデシコ 壁掛けプレート
アラビア ボタニカ ミニプレート バカラローズ
アラビア ボタニカ ミニプレート バカラローズ

食卓のトムラ

トムラは壁の器だけの人ではありませんでした。日々使う器にも、たくさんの仕事を残しています。

なかでも見つけるとうれしくなるのが、スパイスポットの一群です。シナモン(Kanel)、ジンジャー(Ingefära)、カルダモン(Kardemumma)、クローブ(Nejlika)。それぞれの香辛料の、もとになる植物が描かれています。粉になってしまうと姿のわからないものに、ちゃんと葉と花があったことを思い出させてくれます。この発想がとても彼女らしい。

ほかにも、取っ手のついたサービングトレイのパストラーリ(Pastraali)、小さな器のフエニカ(Fenica)、黄色が明るいタンヤ(Tanja)のカップ&ソーサー。1959年から1975年までつくられたオメナ(Omena/りんご)のように、果実をモチーフにしたものもあります。

アラビア エステリ・トムラ スパイスポット クローブ
アラビア エステリ・トムラ スパイスポット クローブ

一枚ずつ、集める

ボタニカのようなシリーズは、そろえて買うものではないと思っています。

気に入った草花を一枚。しばらく飾って、また別の季節に一枚。そうやって増えていった壁は、そろえて買った壁よりずっと良い顔をします。当店でお取り扱いするものは基本的にすべて一点ものですので、同じ絵柄に二度出会えるとはかぎりません。けれどそれは、選ぶ楽しみが一回ずつ真剣になる、ということでもあります。

古い器を長く使うためのお手入れについては、ヴィンテージ食器のお手入れガイドにまとめました。壁掛けプレートは基本的に手洗いです。

わすれなぐさのエステリ・トムラ

当店の器は、店主がスウェーデンの蚤の市で一点ずつ選んで買い付けたものです。トムラの器は、フィンランドの作家でありながらスウェーデンの市にもよく流れてきます。実際に手に取ってみると、白い地のわずかな色むらや、ラテン名の筆の入り方が一枚ずつ違うことがわかります。写真ではなかなか伝わらない部分なので、商品ページではできるだけ寄った写真も載せるようにしています。

現在のお取り扱いはアラビアの商品一覧から、これまでにお迎えいただいた器は過去の商品からご覧いただけます。

アラビアというブランド全体については、アラビア ヴィンテージ食器ガイドにまとめています。

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